174人が本棚に入れています
本棚に追加
「元々、お前が所帯を持ったら譲るつもりだったんだ。
そのままそこに住んでもいいし、売ったって貸したっていいさ。
ただ、不動産を所有する事になるからな、税金はかかってくるぞ。
それで良いなら、もらってくれ。
あぁ…話があるって言ってたな。何だ。」
親父は思い出したように「俺ばっかり話してて悪かったな。」と笑って言った。
俺も恵人も言おうとしていた事は解決してしまったから、笑うしかなかった。
「お父さん、俺達、一緒に暮らしたいから、マンションを出ますって言おうと思ってたんです。」
「親父、なんかさ、何だろう…。
ありがと…。」
気持ちが昂っていてうまく言葉に出来ない。
恵人と暮らすのを許してくれた事も、また実家に顔を出して良くなった事も、姉ちゃんの子供に会える事も、全てに感謝している。
「マンションの事、ありがとう。
どうするか、もう少し相談して決めるよ。」
親父が母さんにプロポーズした、恵人が初めて実家に泊まった夏、母さんと三人で花火を見た、俺を置いてきぼりにした恵人を探して、ここに来た。
その場所で、「馬鹿者、許さん」と言い続けた親父の許しを二人で聞く事ができた。
家族に打ち明けてから一年半と少し、付き合い始めて三年目の秋の出来事だ。
最初のコメントを投稿しよう!