第二話 三途の川

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仄暗い中を、あてもなく彷徨っている。 ここは、どこだろう? 暗灰色。 まさにこの色の中を歩いている感じだ。 そして私は、何故ここにいるのか? 全く思い出せない。 周りには、白装束を着たお婆さんやお爺さん、 振袖姿のお姉さん、制服姿の男子学生、 ウェディングドレス姿の女の人、 パジャマ姿の主婦、制服姿の男性などが、 ゾロゾロとただ只管、 一定方向に向かって黙々と歩いている。 皆、服装はバラバラなのに、 一様に無表情でまるで能面みたいだ。 そして誰も一言も発しない。 私も列に紛れて歩く。 しばらく歩くと、前方に鈍い光が見えてきた。 そして徐々に1列に並び始める。 何かの順番待ちのようだ。 待ちながら、何故自分がここにいるのか? 思い出そうと試みた。 今着ている服は、デニムパンツに白Tシャツ。 黒いスニーカーだ。 確か、夏休みで。 家族で母方の祖母宅に来て、そして…そして…。 何故か理由はわからないが、激怒する母親、 飛び出す私、雨の中…。 断片的に、記憶が甦っていく。 溺れる私、そして…川底に沈んで行く… 琴姉!!! 突然、全てを思い出した。 確か木の杭みたいな尖った棒に、 胸を突き刺した筈。血が口から溢れて…。 思わず、胸を確認してしまう。 でも、血も何もついていない。 …これが、いわゆる死出の旅、 というやつなのだろうか? 琴姉はどこだろう? そうこうするうちに、光の向こうに近づいてきた。 光が少し眩しくて、思わず目を細める。 そこは、一面灰色の世界。 ゴロゴロ、ゴツゴツした石の河原。 右から左へ流れる大きな灰色の川。 流れはさほど激しくなく、 皆、列を作ったまま川に入っていく。 どうやら向こう岸に渡るようだ。 向こう岸には、 赤や青、白やピンク、黄色等 色とりどりの沢山の種類の花が咲き乱れている。 黄色や白の蝶々が舞っている。 こちらから川までは灰色。 あちら側の川岸からは鮮やかな色彩の世界。 そうなっているようだ。。 私も前に続いて、川に足を踏み入れた。
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