序章 消えない烙印

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胸が、痛い…。 ズキズキ、脈打つ毎に刺されるような痛みと、 ヒリヒリと焼け付くような痛み。 不快だ。実に不快極まりない。 けれども、これは病気では無い。 雨が降る前、雨の日、雷… こんな日は、喘息の発作と共に古傷が痛むのだ。 それもこれも、台風が近づいているせいだ。 気圧と気候の関係で、心臓が弱ってると浮腫んだりもしやすい。 そしてこの痛みは、私への『罪の烙印』なのだ。 …私の罪の証… 自分だけ生き残ってしまった、最大の罪。 あの時、私も死ぬ筈だった。 何故、生き残ったのが私なのか…? 神なんていない! もしいたなら、私のような役立たずを生き残らせる筈が無いのだ。 姉が生きていたら、今頃、 どれだけ人様の、世の中のお役に立っていた事か。 姉の将来の夢は、女優、または女医。 もし女優なら、姉をお茶の間で見る、雑誌で見る人全てが癒され、 生きる希望を見出したに違いない。 もし姉が女医になったら、本当に沢山の命を救い、 関わった全ての人の人生を素晴らしい方向へ導いただろう。 けれども、その夢は永遠に果たされぬまま、 姉は小学校4年で、その生涯を閉じた。 生き残った私は、普通の高校に通う16歳、高一。 ただの女子高生だ。 何の特技も、秀でたものも無い。 だから私は、せめてもの罪滅ぼしに、 心から笑ったり、楽しんだりする事を禁じた。 対人関係を円滑にする上で、 必要に応じて笑顔の仮面だけを被って生きる。 生ける屍。まさにそのままだ。 時折訪れる、胸の痛み。 それと同時に起こる喘息の発作。 そう、この痛みと苦しみがある限り、 私は自分を戒めて生きる。 一生消えない、烙印。 私には、琴美と言う名の3つ年上の姉がいた…。
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