第四話 奇跡の生還は果たしたけれど…

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…雨か…。 もう、10月になっていた。 相変わらず、点滴。排泄は看護師さんにして頂く。 そんな感じだったけれど、仰々しい医療器具は外され、 ベッドから体を起こしたり、少しの時間なら話せるようになっていた。 両親は、病院に運ばれた日と、意識を取り戻した日。 いずれも私が昏睡状態の時に来ただけらしい。 看護師さんの話によると、両親ともに体調が優れない、 と言う事だった。 姉の事が相当なショックだったらしい。 …だろうね、ごめん、生き残ったのが私で… どう伝えたら良いか迷いながら話す彼女。 きっと、両親とは「子供に愛情を注ぐもの」 と、何の疑いもなく育った環境にいたのだろう。 両親は子供を愛するもの、そんなのは幻想だと思う。 そうなれない親も少なくないのだ。 世間体の為に、子供を可愛がるふりをしている親が少なくない。 それも、本人には無意識で、 良い母親、良い父親をごっこをしている事に酔っているから厄介だ。 看護師さんから告げられた事は予想通りだ。 いや、むしろ二回も来てくれた事に驚いている。 …世間体、という奴だろうか?少しニュースになったようだし、 新聞にも載ったらしいから… 何より私自身が、両親と顔を合わせるのが怖かった。 きっと、私が生き残った事を快く思っていない。 死んだのが姉では無く、私の方だったら良かった。 そう思っているであろう事が分かるからだ。 別に、僻んで言っているのでは無い。 幼い頃からの積み重ねでもう肌で感じているのだ。 …私は、生まれて来た事を歓迎されていない… 「お父さん、お母さんが面会に来て下さいましたよ!」 嬉しそうに声を弾ませる看護師さん。 …ドキン… 怖かった。会わなくて良い、とすら感じた。 入って来た両親は、 気を利かせて病室を出ていく看護師さんに深々と頭を下げる。 父親がグレー、母親は紺、それぞれスーツに身を包んでいた。 無表情の両親。能面をつけているみたいだ。 二人とも顔色が悪く、やつれ切っている。 姉の事でいかにショックだったのかを物語る。 …生きていてごめんなさい… そんな感情しか浮かばない。 両親は、私の顔を見ながら無言だった。 マネキン人形みたいで、怖い…。 何を考えているのか分からぬよう、能面の仮面に感情を隠している…。 しばらく沈黙が続いた。
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