第壱部 「幼少から思春期編」 第一話 原罪

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「使命」 何と自らを奮い立たせる言葉であろう? 全く何の意味も持たない事を、 あたかも神から命じられたかのように、 自分が選ばれた特別な人間である! そう思い込ませるのに十分な言葉である。 だから私は 「お前の姉ちゃんスゴイ可愛いいけどお前似てねぇな」 「お姉さんは可愛くて優秀な子ね」 老若男女を問わず、言われ続けても 「全ては姉をより引き立てる為の使命!」 と思い込む事にして生きる意味を見出してきた。 そんな姉は、事あるごとに私に言ってきたセリフがある。 「私は単に『早咲きの花』なだけ。 朱音(あかね)が高校生になる頃には、 すぐに私に追い付いて追い越しちゃうよ。 私の栄光は、今だけ。惜しまれる内に死んじゃいたいわ。 …あ!朱音は何があっても、生きぬ抜かなきゃダメよ! 朱音は『遅咲きの花』なんだから」 わざわざ、半紙に毛筆でしたためたものを私に渡してきた。 当時は、姉が言っている意味の半分も理解できなかったけれど。 これは、今も大切に保管してある。 姉が亡き後、無理やり考え出した「使命」は、 もはや何の力も示さない。 だから今日まで私は、 姉の遺言とも言うべきこの言葉をお守りにして 何とか自らを奮い立たせ、生きてきた。 賢く聡明な姉の事だ。 もしかしたら自身が早世である事を感じ取っていたのかもしれない。 でも、さすがの姉もハズしたよ…。 琴姉(ことねえ)…。朱音は16歳、高一になったよ。 4月に入学したよ。 でも、でもさ。 琴姉が予言したように、追い付いて追い越す。 そんな事、全く無かったよ…。 朱音は相変わらずダメなまま、変わらないよ。 パパもママも、諦めてるよ…。 「お前はどう頑張っても、琴美にはなれないんだ。仕方無い」 だって。 頑張って、頑張って…倒れて 肺炎で入院するくらい頑張って、 やっと入学した高校は平均より上、上位より下。 そんなレベルの高校だよ…。 これ以上は、朱音には無理だったよ。 成績だって、学年で11位だった。 琴姉なら、トップクラスの進学校に入学して、 校内はおろか全国レベルでトップなのに。 これが限界だよ。これ以上は無理なんだよ…。 …もうすぐ8月13日、姉の命日がやってくる… あの日は、台風が近づいている時だった。
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