第壱部 「幼少から思春期編」 第一話 原罪

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道路を渡って暫く歩くと、ほら…見えてきた。 一目で、水嵩が増しているのが分かる。 綺麗な水は、濁って泥水に。 まるでそれは、人間誰もが持つ、 汚く醜い闇の部分みたいに、ドロドロの汚水だ。 いつもは穏やかな流れに見える川なのに、 別の場所に来たみたいにゴーゴー音を立てて 流れている。 風も、徐々に強くなってきた。 なんだか、さっきの母親みたいだ。 普段は優しくて穏やかで綺麗なのに… まさに鬼の形相だった。 打たれた左頬は、ジンジンして熱い。 きっと醜く腫れている事だろう。 水死体は、体中がパンパンに腫れて あちこち虫に食われたりするらしい。 頬は岩にでもぶつかったのだろう、 と思われるに違いない。 そもそも、 死体が見つかるかも分からない訳で。 両親に虐待が疑われたら申し訳ない。 生まれて来た事自体が間違いだったのだ。 こんな役立たずを、よく小1まで育ててくれた。 せめて、死ぬ時くらい迷惑かけずに死にたい。 祖母と姉と、いつも散歩をする場所に向かう。 土手を降りた川沿いだ。 そこはちょっとした原っぱになっているのだ。 けれども水嵩は、 いつも歩く場所まで溢れて来ている。 そこに降りるのが、急に怖くなった。 川は怖いくらいに、流れが早い。 ゴーゴー言いながら怒り狂っている。 少し先の橋の柱の部分には、 色んなゴミや石が集まって、 泥水はそこを流れる時は 滝みたいにゴーゴー激しく水飛沫を上げている。 いつもは、直射日光を優しく遮る木々の葉が、 今は雨に打たれ、 少しずつ激しくなってきた風に身を任せている。 まるで怒られてるみたいに、うなだれていた。 私はなんだかんだと、時間を稼いでいる。 心のどこかで、期待していたのだ。 もしかしたら、誰か探しに来てくれるかも! と…。 これだけ悪天候だ。姉は皆が外に出す筈が無い。 母親は来ないにしても、せめて父、 いや、祖母か祖父でも良いのだ。 もしかしたら…。 もう少しだけ待ったら…。 だから、見つけられ易いように 土手下には降りず、上で佇んでいた。 風は益々激しくなり、雨も強く叩きつける。 …誰も、来なかった… これが、「こたえ」だ。 死んでも構わない、と。いらない子だ、と。 私はゆっくりと土手を降りていった。
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