第壱部 「幼少から思春期編」 第一話 原罪

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姉は激しく複雑に絡み合う水流をものともせずに、 中州を目指す。 後から知ったが、姉の泳ぎは プロのライフセーバーが溺者を救助する際の ものだった。 姉がそれを知っていたかどうか、 今となっては確認は取れない。 けれども、プロのライフセーバーでさえ 激流をものともせず溺者を抱えて泳ぐのは 非常に困難だ。 もしかしたら、火事場のなんとやら… だったのかも知れない。 「生きて!生き抜いて! あなたは『遅咲きの花』 いつか、生きてて良かった、 て思える日が来るから。 それとね、 私はここで『尽きる宿命』だったの。 最初から決めて来たの。 だから、自分を責めないでね」 姉は、ゆっくりと力強く、そう言い切ると 泳ぐペースを上げ、 私を中州に投げ飛ばす勢いで放った。 中州の草にしがみつき、陸に這い上がる。 そしてすぐに振り返り、姉を引き上げようと… 「私は天命。朱音は生きて!」 と儚げに微笑んだ。 思わず息を呑んで見とれる程に、美しかった。 まさに、女神の微笑みだった。 そして姉は激流に流されて行き、 水底に引き込まれるようにして沈んでいった。 あっという間の出来事だった。 「…琴姉…」 徐々に、 とんでもない事をしでかした自分に気付く。 「琴姉…琴姉ーーーーーーーーーーっ!!!」 私は力の限り叫び、ワァーーーーーーッと 声を上げて泣き叫んだ。 「琴姉、ごめん、琴姉、ごめんなさい。 ワァーーーーーーーー!」 もう、パニック状態だった。 私が、姉を殺したも同然だ…。 どうやって償えば良い?どうしたら…姉を…。 そうだ。姉の後を追えば良いんだ。 姉を殺したも同然な私。 生き残っても両親には恨まれるだけだ。 私は再び、激流に身を任せた。
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