日陰 参

11/11
前へ
/344ページ
次へ
「心晴、きちんと伝えよう。心晴の気持ちを、もう一度」  心晴を応援すると決めたのに、揺らいでしまうのは、きっと花火大会の夜、燈也君の優しさに触れてしまったからだ。  その温かくて逞しい体に、触れてしまったから……  でも、もう一度私は自分に言い聞かせる。何度でも言い聞かせなきゃいけない。  心晴を応援しようって、決めたじゃない。 「きちんと言ってあげなくちゃ、心晴の気持ちが可愛そう。ちゃんと燈也君に伝えて心晴――」  だから、私のためにも、もう一度きちんと告白してね、心晴。きっと、燈也君は頷いてくれるよ――大丈夫。 「そうだよね……ありがとう、なぎさ! 私、もう一度頑張る!」  気持ちを強く持ち直した心晴は、そう言っていつもの笑顔を見せてくれた。  ありがとう――そんな心晴の言葉が、笑顔が、私の心に突き刺さる。  心晴、私、お礼を言われることなんて何にもないんだよ。気を抜くとほんの少しでも、上手くいきませんように――なんて思っちゃうような、最低な奴なの。ごめんね、心晴……  なんとか心晴の背中を押すことができて良かった。さぁ、これで大丈夫。そう、私も自分に言い聞かせる。  これで、良いの。二人が上手くいけば、きっと前みたいに五人で楽しく過ごせるようになるはず……それが、私が願うこと――  心晴は、秋にある体育祭で告白すると決めたようだった。  私は――ふぅっと深く深呼吸をして、心の波を鎮める。心晴を応援するのよ、ねぇ、私。
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

641人が本棚に入れています
本棚に追加