落日 壱

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「ご協力感謝します」  そう、ゴール後の選手が並ぶ場所で健ちゃんに向かって敬礼をした。 「あはは、なんて書いてあったんだよ。イケメン?」 「あー残念、「あ」から始まる人」 「なんだよ、ノリが悪いなぁ。そこは嘘でもそうって言ってくれよ」 「そ、そっか! ごめん」 「本気で謝るなよ、なぎさ」  なんて健ちゃんとケラケラ笑い合っていると、ぐっと腕を引かれた。 「なぎさ、一緒に来い」 「――え?」  腕を引かれるまま、私はもう一度ゴールテープを切る。どうやら一等賞のようだ。 「協力感謝する」  ゴールテープを切った燈也君が私に向かって左手をぴっとおでこに当てて敬礼ポーズをとる。この既視感、何でしょうか? 「私が借り物?」 「そう、おまえ」 「なんて書いてあったの?」 「間抜けな人」 「嘘!」 「あはは、嘘だよ、真に受けんな。二組の人、おまえ、ゴールの近くにいたからさ、時短になるだろ」 「なにそれ、ちゃんとテントから連れてきなよ」 「でも審判のオッケー出たから」  なんて言いながら、燈也君は口角をぐっと上げた。その表情、すごく好きだけど、なんだか今はちょっと呆れてしまう。  そんな話をしているうちに、いつの間にか競技は終わってしまっていたようだ。借り者の健ちゃんはすでにテントに戻ってしまったので、私は燈也君と並んで退場する。  よし、これで私のノルマは一つ減りましたよ。あとは障害物競走……どちらかというとこっちの方が嫌だ。平均台もネットくぐりも跳び箱だってまともに飛べない気がする――  いえ、結果は気にしません。楽しむことに意義があるのです。
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