落日 弐

17/17
627人が本棚に入れています
本棚に追加
/344ページ
 私たちが家に着いた頃、ちょうど健ちゃんの迎えの車も来ていた。お父さんが、人懐っこい笑顔で手を振っている。 「ありがとう健ちゃん、ちょっと待ってて!」  私は急いでお店に入ると、売れ残りのパンを探す。今日はほとんど売れてしまって、たくさん焼くバターロールくらいしか残ってなかった。  私はバターロールを袋に詰めて健ちゃんのところに戻る。 「今日はこれしか残ってなくて、ごめんね、健ちゃん、ありがとう! 健ちゃんのお父さんもありがとうございました!」 「いつも悪いなぁ、貰ってばっかりだ。このためになぎさのこと送ってるって思われそう」  健ちゃんが申し訳なさそうに言ってくる。 「売れ残りでごめんね」 「何言ってるんだよ、嬉しいよ、ありがとう!」  またな、そう言って健ちゃんは車に乗り込むと、ぶるると音を立てて車は走り出した。  塾はサボってしまったけど、40号キャンバスを描き終えた達成感は大きい。 「明日からはきちんと受験生するぞ!」  燈也君への邪念を抱かないよう、私は無心に勉強することを心に決めた。これで落ちたらシャレになりませんからな!
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!