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「なぎさ、魔法、かけてやろうか?」
急にそんな懐かしいことを言う燈也君。あの十年前の冬と同じ──
「どうしたの? 私、これから挑むものなんてないよ~」
そう言ってるのに──
「素直になる魔法、かけてやるよ、目ぇ、つむれ」
大人になった今、はっきり言っておでこにキスなんて、気恥ずかしいのだけれど……ここまできたからには、流されてやろうではないか!
私は素直に目をつむる──
左肩にかかる燈也君の重み──
そして、次の瞬間──その熱さが落ちてきたのは、おでこではない。
ゆっくりと落ちてくる熱を、私の油断していた唇が、脅えたように受け止める。
一度目は軽く。そして、もう一度降りてくる熱を、私はしっかり受け止めた──
「俺、ずっとこうしたかったんだ。バカだろう、十二年もかかった」
熱を帯びた唇を受け止めた、私は、トマトみたいに真っ赤になっていたと思う。
私も──
その短い言葉が、なかなか音にできない。心臓がうるさいくらいにエンジンをかけていく──
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