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泣いている私に、燈也君は言い聞かせるように優しく語りかけてくれる。
「俺、勘違いしてたんだ、なぎさは健太郎のことが好きなんだって。俺は健太郎のことも好きだったし、健太郎がおまえのこと好きなのも知ってたから、俺は諦めなきゃいけないって思ってた」
降り注ぐ、燈也君の中に仕舞われていた思いたち。私がたくさんの想いを抱えていたのと同じように、燈也君も様々な想いを抱えていたようです。
「でも、まだまだ子供だったからかな、止められなかったんだ。おまえに触れたくて、名前を呼びたくて、少しでも一緒にいたくて──。心晴と付き合えば、少しは変わるかなって思ったけど、むしろ逆効果だったな。おまえのことばっかり、どんどん好きになってさ……心晴には、酷いことしたなって思う。こんな気持ちのまま、心晴と付き合うべきじゃなかったんだ」
燈也君が私の頬に触れた、おそらく、あの受験の日のことを思い出しているのだろう。
心晴と私の間に出来てしまったわだかまりのことを、案じてくれているのだろう。
「私、心晴とは成人式の日に仲直りできたんだよ、だから大丈夫。もう、仲良しなの」
そう言って私が笑うと──
「良かった」
そう、ほっとした様子で短く返してから、燈也君は春の日だまりのように笑った。
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