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「おまえ、あの海の絵、まだ持ってるか?」
ひとしきり泣いた私が落ち着いた頃、燈也君は私の体をそっと離して、そんなことを言った。
「あの、40号キャンバス? なんと、こっちに持ってきてるよ~、もはや壁の一部だよ」
「マジで、見たいなぁ」
なんて言うものだから、私は燈也君を連れて家にやって来ております。
「急に押し掛けて大丈夫か?」
申し訳なさそうな燈也君──なんだか、こんな燈也君、昔も見たことがある気がする。
「散らかってるけど、部屋にいれてあげられない程ではないと思う」
申し訳ないのは私の方だ。上野の駅から私の家は決して近い距離ではない。
電車に乗りながら、私たちは十二年分の思い出を語った。
一緒にいた時間のこと、進学してからのこと──離れてしまってからの時間を埋めるように、私たちは互いに言葉を紡ぐ
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