日陰 参

8/11
624人が本棚に入れています
本棚に追加
/344ページ
 結局、私は燈也君に待ち合わせ場所まで運んでもらってしまった。  待っている間に心晴に連絡を取ってみるけど……既読にすらならない。  なんだか気まずい空気が流れてしまって、沈黙のまま三人で待っていると、ほどなくして迎えの車が来た。 「待たせて悪かったね、さぁ乗りな」  相変わらず、気さくな健ちゃんのお父さん。健ちゃんは助手席に、私と燈也君は後部座席に乗り込んだのだけれど……  健ちゃんのお父さんが運転してくれる車内で、私たちは三人、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。  いつもは仲の良い健ちゃんと燈也君がなぜか無言。私も帰ってしまった心晴から、何の返信もないので、もやもやしていた。  心晴は告白できたのだろうか、できなかったのだろうか……  どちらにせよ、心晴は傷ついて帰ってしまったのだろう。もしも告白していたのら――燈也君から良い返事を貰えていないことは容易に想像できた。 「健ちゃんのお父さん、遅くに送ってくださってありがとうございました。足も痛かったから、すごく助かりました。健ちゃん、燈也君、また新学期」 「またね、なぎさ」 「じゃあな」  そう言ってぎくしゃくしたまま、健ちゃんのお家の車から降りて、二人と別れると、さっき、私を抱えてくれていた燈也君の温もりを思い出して――涙が出てきた。  一度泣いてしまうと、もう止まらなくなって、私は家に入らず、しばらく外で泣いた。  どうして、気が付かなかったことにできないんだろう。どうして、忘れることができないんだろう。どうして、心晴と同じ人を好きになってしまったんだろう――  答えのない問いに、私は泣くことしかできなかった。  そうして、少し香り始めた秋の風の匂いと共に、私たちの夏休みは終わりを迎えようとしていた。  正直、新学期を迎えるのが怖い。  どんな顔をして、心晴に会ったらいいんだろう。
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!