ユーリの故郷

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 エレベーターの扉が開く。正面にある扉を見たユーリがゴクリと唾を飲み、そこに向かって歩を進める。俺もそのあとを、護衛をするようについていく。  ユーリが刃のような言葉や態度で傷つけられても、俺には庇うことはできないだろう。だが、傷ついたユーリが吐き出す胸のうちを、静かに聞くことはできる。  迷うことなく親父さんの病室の扉を開け、中に入っていくユーリ。躊躇いながらも、俺も中に足を踏み入れる。  ベッド脇の椅子に座って、ベッドで眠る親父さんだと思われる男性を見守っていた女性が、俺達の気配を感じたようで振り返る。 「ユーリ!」  嬉しそうに目尻の皺を深めてユーリの名を呼ぶ女性の耳は、純白だ。顔の作りもユーリとよく似ていて、若い頃は相当な美人だったのだろうことが窺いしれる。女性は、ユーリの母親なのだろう。 「お久しぶり、お母さん」  そう、女性に挨拶をするユーリ。やはりこの女性がユーリの母親だったのか、と女性を眺めていると、ユーリしか映っていなかっただろう瞳が俺を映した。 「そちらの方は?」  息子の名を呼んだ声とは明らかに違う固い声で、ユーリに誰何する女性。 「僕の大切な友人だよ。心細かったから、一緒にきてもらったんだ」  穏やかに答えるユーリだが、その背中からは、ひしひしと緊張が伝わってくる。 「まぁ、ユーリのお友達なの! 東都に行って、そんな大切なお友達ができたのね」  ユーリは、もう二度とこの女性に会わない結末が待ち受けているのだろうかと考えていると、女性の表情が一変した。少女のような笑みを浮かべて喜んでいる女性を、唖然と見つめる。 「ユーリは人見知りが酷くて、こっちではお友達がいなかったの。だから……」  感謝するように俺を見つめる女性の瞳が、みるみる潤んでいく。 「僕は東都で、とても幸せで充実した日々を過ごしているんだ。だから、安心して」  女性に歩み寄ったユーリが、遠慮がちに女性の肩を叩く。こくこくと頷く女性は、最下位種の俺が友人だということに罵声を浴びせることはなかった。  実際は友人ではなく、雇い主と家政夫という関係だが、最下位種の家政夫と一緒に住んでいると言うより、友人と言った方が当たり障りがないと考えたのだろう。
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