出会い

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 雨が降っている。  雨は嫌いだ。己の宿命のはじまりを、いやでも思い出してしまうからだ。  四角い枠の外の、まるで俺みたいな薄汚れた路地裏を一瞥し、換気のために開けていた窓を閉める。  雨の記憶を断ち切るように振り返り、掃除を終えた室内のチェックを開始する。  趣味の悪いレースのカバーが掛けられたベッドは、綺麗に整えられている。安っぽい金メッキで縁取られたテーブルにも埃はない。  バスルームに移動する。水滴は全て拭き取られていて、毛の一本も落ちていない。  鏡の確認の際、そこに映った満足気な顔と目が合い、すうっと気持ちが冷めていった。  どれほど綺麗にしようが、この部屋を利用する奴らは気にも留めないだろう。場末の連れ込み宿屋に求めるものなど、シャワーと丈夫なベッドだけだ。  室内のチェックが終わり、掃除道具をのせたワゴンの押し手に手をかける。  今日は、これで仕事が終わりだ。少しだけ金に余裕があるし、なにか美味いものでも買って帰ろうか。  そんなことを考えながらドアに向かっている時だった。まだ手を触れていないそこが勝手に開き、弾丸のような勢いで誰が侵入してきたのだ。
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