ユーリの故郷

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「んぐー」  ベッドから呻き声がしたので、三人の目がそこに向く。 「あなた、ユーリがきてくれましたよ」  女性が嬉しそうに、ベッドの上の男性に声を掛ける。  母親からは拒絶されなかったが、父親の方は分からない。嫁いできた母親とは違い、自分達が頂点だと信じて疑っていない家系で育った父親だ。ユーリもそう考えているのか、再び緊張を纏いはじめた。 「んぐ」 「そう、嬉しいのね」  男性の声にならない声を理解した様子の女性が、うんうんと頷く。 「お母さん、その……お父さんの具合は?」  父親の様子に疑問を抱いたのだろうユーリが、おずおずと訊ねる。 「右半身が麻痺してしまって言葉もうまく喋れないけれど、命の危険はないそうよ」  穏やかに症状を教えてくれる女性。命の危険はないといってもこの症状ならば、男性はもちろん、介護する女性の負担も相当大きいだろう。ユーリもそう思ったのか、悲痛な表情を浮かべている。 「そんな顔をしないの。これからは夫婦でゆっくり、ユーリの活躍を眺めて暮らすから大丈夫よ」 「え……」  モデルになることを反対していた両親が、自分の活躍を眺めるとはどういうことだろう。そう考えていると分かる表情のユーリに、女性が一台のタブレットを手渡した。 「これは?」 「お父さんの、ユーリ専用タブレットよ」  信じられないといった様子で、タブレットを操作しだすユーリ。俺もユーリの隣に移動し、それを覗く。そこには、ユーリがデビューしてから今現在までの画像や映像が、びっしりと収まっていた。 「生き生きしているユーリの姿を見て、ふたりで反省したの。ユーリが俯いてばかりいたのは、私達のせいだったんだってね。よかれと思ってやっていたことが、ユーリには重荷になっていたんだってことに気づいたの。ユーリ、息苦しい思いをさせていて、ごめんなさいね」  父親の纏めた自分の姿を見ているユーリに、ポロポロと涙を流しながら謝る女性。そんな母子を見上げている男性の目尻からも、一筋の涙が流れた。 「お父さん、お母さん……。僕、モデルを続けてもいいの?」 「えぇ。ユーリの活躍をコレクションするのが、お父さんの生き甲斐なんだから」  そうですよね、と同意を求めてくる女性に対して、男性は力強く頷いた。込み上げてくるものを堪えるように唇を噛んだユーリが、両親に深々と頭を垂れる。  扉の先にあったのは、天国だったようだ。
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