ユーリの故郷

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 父親の回診の時間になったので、病室をあとにする。  ユーリを気遣って、もう見舞いにはこなくてもいいと告げてきた両親に対して、時間ができたら来るしタブレット越しでも顔は合わせられるよ、と連絡先を教えていたユーリ。歪んでいた親子関係が本来の姿を取り戻した姿を、少し寂しさを覚えながら見守った。  愛された思い出ばかりなのに突然の別れを余儀なくされた俺と、愛された思い出はないのに突然愛されていたことを知ったユーリ。どちらが幸せなのだろう。これからも関係を深めていけるユーリの方だろうか。そんなことを考えたところで、なんの意味も持たないか。  そんなことを考えながらエレベーターを降りると、ユーリの腹が空腹を告げる音を控えめに鳴らした。 「なんだか、お腹が空いちゃったよ」 「まだ朝飯を食べていなかったもんな」  時計を見ると、十時を少し回ったところだった。空腹に気づいた俺の腹も、ユーリに倣うように鳴る。ユーリの音より盛大に鳴いた腹の虫に、ふたりで顔を見合わせて笑いあい、駐車場に止めた車の元に向かう。 「おすすめの飯とかあるのか?」 「うーん、美味しいフィッシュバーガーの店があるんだけど、そこはどうかな?」 「海の街のフィッシュバーガーか。美味そうだな」  ユーリのおすすめのそれを食べることに決まり、車に乗り込んでフィッシュバーガーの店を目指す。  その店は、海岸線沿いに立っていた。黄色の可愛らしい店舗の裏側には海を見渡せるテラスがついていて、そこで飲食できるようだ。 「行こうか」  後部座席に置いてあったキャップを深々と被ったユーリが車を降りる。俺もパーカーを被って、そのあとを追う。  最上位種の耳と最下位種の耳。向けられる視線の意味は両極だが、他人に無礼に見られたくないのはどちらも同じだ。  耳を隠して並んで歩いていると、ユーリとの間にある高過ぎる壁が消えたような気になってくる。まるで、同じラインに立つ友人になったような気分だ。 「ダイくん、どのセットにする」  店内に入ったユーリが、壁に掲げられたメニューを見ながら聞いてくる。 「ユーリと同じやつでいい」  同等の友人気分に浸っているので、同じものを食べたいと思ったのだ。  ユーリが注文したセットをカウンターで受け取り、海の見渡せるテラスに向かう。
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