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昼食をとるにはまだ早い時間なためか、テラスには誰もいなかった。潮風が肌を刺すが、雲ひとつない青空から陽射しが降り注いでいるので、凍えてしまうほどではない。
「ドリンクは、ホットにしておいたからね」
寒さのせいか、ほんのり頬を染めたユーリが、バーガーとポテトとドリンクののったトレイを指差す。
「寒いのなら店内で食べるか?」
明日からは、また多忙な日々を送るユーリの体調を気遣って声を掛ける。暖房のきいた店内にも、飲食できるテーブルはあったからだ。
「いや、ここで大丈夫だよ」
「無理はするなよ。風邪を引いたら大変だぞ」
「無理なんかしてないよ。実は僕ね、ここでバーガーを食べるのが夢だったんだ」
「えっ……」
まだ、ここで暮らしていた頃に、何度が訪れたことがある店に連れてきてもらったものだとばかり思っていた。驚いた顔をしているのだろう俺を見て、ユーリはばつが悪そうに目を伏せた。
「ここはね、スクールに通う子達が、スクールの帰りに友達と連れだって食べにくるような店なんだ。バーガーを食べながら話に花を咲かせたり、勉強を教えあったりする、青春の思い出が詰まった場所なんだ」
ぽつりぽつりと呟いたユーリが顔を上げて、水平線の先を眺める。過去の自分を見ているような、遠い目をしている。
「お母さんが言っていた通り、恥ずかしながら僕には友達がいなかったんだ。優秀な家系に生まれた最上位種なのに、なにをやっても最下位だった僕は、人と関わりあうのが怖かったんだ。誰かと目があったら、最上位種のくせに、って馬鹿にされるはずだって怯えて、いつも下を向いていたんだ」
辛そうに、眉が寄せられていく。ユーリの青春時代は、余程暗く沈んだものだったのだろう。
「僕はね、最上位種に生まれたことを、数え切れないくらい恨んだんだ。最上位種でなければ、過度な期待をされずに、駄目な僕でも少しは認めてもらえたんじゃないかって」
自嘲したユーリが、テーブルの上に視線を落とす。
ぶわっと、まるでユーリを叱咤激励するような潮風が吹いてきて、ユーリのキャップが取れた。最上位種の印である純白の耳は、その重圧に耐え切れなかったように、髪にペタンとくっついてしまっている。
飛ばされたユーリのキャップを取るために席を立ち、掴んだキャップをユーリに被せてやる。
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