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「スクールという檻の中では輝けなかったかもしれないけど、今は輝いているじゃないか。今の居場所を見つけてくれたのはアンナさんだけど、アンナさんはユーリの中の輝きに気づいてユーリを見出だした。ユーリ自身の力で、今の輝きを手に入れたんだ」
被せたキャップの上から、ユーリの頭をぽんぽんと叩く。スクールで、最下位種であることを馬鹿にしてきた奴と喧嘩をして、擦り傷をたくさん作って帰宅した時に、母が宥めるようにやってくれた行為だ。
「友達うんぬんの話も、別に恥じることじゃないさ。俺も、友達なんていなかったしな」
俺の通っていたスクールにいた三色は数えるほどで、その誰もが虐めの対象になっていた。それに耐えきれず、スクールに来なくなる奴もいたが、俺は負けるのが嫌で虐めてきた奴とは真っ向から勝負していた。
次第に俺に対する虐めはなくなったが、周りは俺と距離を置くようになった。存在を否定するような無視などはなかったが、必要最低限しか関わってこなくなってきたのだ。そのため、心を深く通わせられる奴などはおらず、友達と呼べる存在はいなかった。
「ダイくん……。バーガーが冷めちゃうね。食べようか」
「あぁ」
俺の方に振り向いたユーリがやんわり微笑み、バーガーに手を伸ばす。俺も席に戻って、バーガーにかぶりつく。
フカフカのバンズの間には、サクサクの衣に包まれた白身魚が入っている。シャキシャキのレタス、酸味の強いトマト、甘酸っぱいタルタルソースと相まって、絶品の味に仕上がっている。
「美味いな」
「うん。念願叶って食べられたら、余計に美味しいよ」
ユーリの目尻が、幸せそうに下がる。スクールの同級生が、ここで楽しく過ごす姿を羨ましく見ていたユーリだから、やっと味わえたこの味は、俺の何倍も美味く感じているのだろう。
お互い相当空腹だったのか、すぐにバーガーを完食してしまった。ドリンクで暖を取りながら、ちびちびとポテトを口に運んで海を眺める。
「夢が叶ったな……」
「夢?」
波音に重なって聞こえたユーリの言葉に疑問を抱く。
「うん。仲良しの子とここでバーガーを食べるっていう、ね」
ほんのり頬を染めたユーリが、はにかむ。
ユーリは俺を、友達だと思っているということか? 便宜上、両親に俺のことを友人と伝え、青春時代に叶わなかった夢の場に俺といるから、そう錯覚しているだけなのかもしれない。
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