真相

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 翌日のことだ。  午前中の仕事を終えてキッチンに向かっていると、時計にランプが点った。ユーリから連絡が届いたという合図だ。  手早く冷蔵庫から栄養ドリンクを掴み、タブレットの置いてあるリビングに向かう。 『ダイくん、忙しいところごめんね。急にうちにお兄さんが訪ねてくることになったので、今から帰ります』  確認した映像のユーリは、酷く焦っているように見えた。  買い物から戻ったら、溜まったものを吐き出そうと考えていたけれど、今日は無理そうだな。  そんなことよりも、ユーリの様子が気になる。自信なさげに、耳が半分垂れ下がっていたのだ。常に比べられて劣等感を刺激されてきた、優秀な兄との再会を恐れているのだろうか。 (床に埃が落ちていないか、見ておくか)  栄養ドリンクを一気に煽り、立ち上がる。掃除はきっちり済ませたつもりだが、兄に何かしら嫌みを言われてユーリが傷つかないように、もう一度室内のチェックをする。  そのあと、キッチンに向かい、高そうだなと思って今まで使わずにいた、ティーセットを棚からだす。お茶は、スーパーで一番高い葉を買っているので、それで大丈夫だろう。  食べるか食べないかは分からないが、お茶菓子も出した方がいいのだろうか? 何か、お茶菓子に出せるものはないかと探してみる。  ファッションショーで、ユーリが着た服のデザイナーから貰ったというプリンが、冷蔵庫に入っていた。ユーリに店名を教えてもらったのに忘れてしまったが、有名店の数量限定のプリンだと聞いている。俺が風呂から出たら一緒に食べようと約束していたものだが、ユーリの親父さんの緊急入院の連絡が届いて出掛けてしまったので、そのままになっていたものだ。  消費期限は明後日までのようだし、これなら出しても恥ずかしくない品だろう。ふたつしかないので、ユーリと一緒に食べるという約束は叶えられなくなってしまうが、仕方ない。  俺がユーリの兄と顔を合わせることになるのかは分からないが、一応、服を着替えておいた方が無難だろう。一旦リビングに戻ってタブレットを手に取り、自室に向かう。  着替え終えると、タブレットに連絡が届いた。 『マンションに到着したから、お兄さんと一緒に部屋に向かうね』  そう書かれた文字だけのメッセージを見て、慌ててキッチンに向かい、お茶の準備をする。
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