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1・(香澄と美代子)
“ちっとも美人じゃないけれど、色が白くて小さくて、前髪垂らした可愛い子”
このフレーズと、美代子と言う名前を聞くだけで、三十八歳を迎えた今でも歯軋りする程の憤りを感じる。
香澄の記憶の中で今でも健在な美代子は、色が白くて小柄。
前髪を切り揃えたボブカット。
おまけに当時、香澄が通っていたK大学附属高等学校で一番の美人だった。
カトリック系の上品さで有名な学校の雰囲気にピッタリの、可愛らしい十七歳の彼女は香澄の一学年下で高校二年生。
男子学生の憧れの白洲美代子はまた、香澄の熱狂的なファンとしても有名だった。
当時から背が高く、宝塚の男役の様だと評判だった香澄は、生徒会長を二期も熟した事もあって、女学生達に絶大な人気を誇っていた。
美代子の可愛らしさにすっかり騙されて、最初の頃は妹の様に可愛がっていた香澄。
「この娘は私の大事な妹よ。苛めちゃダメよ」
「ありがとう。香澄お姉さま」
それはよくある思春期の“お姉さまに捧げる少女の思慕”、で終わる筈だった。(ところがこの娘の恋情は、普通では無かった)
独占欲を剥き出しにしてすると、熱く迫ったのである。香澄は驚いて、美代子を遠ざけた。(香澄は、ノーマルなのだ!)
実は香澄にはあの頃、想いを寄せる意中の男がいた。
取り巻き達には、絶対に内緒の恋。
二歳年上の大学生の彼は幼馴染みで、何と言っても香澄よりも身長が高い。
(ソコが重要ポイント)香澄は結構、本気だった。
だが美代子には、そんな事は絶対に許せなかった。
香澄を見張って相手を突き止めると、駅のホームで偶然を装って男に近づき、まんまと恋人の座を奪ってやったのだ。
然も、まだキスさえした事のないウブな男を、ダメ押しに寝取って見せた。童貞は趣味じゃないが、些細なことには美代子も目を瞑った。
(・可愛さ余って憎さ百倍*それこそが、美代子の企んだ香澄への仕返しだった)
『香澄の衝撃は押して知るべし』だろう。そのせいで幼馴染みの健吾と香澄は、呆気なく破局した。
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