killer...1

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人は誰でも嫌な記憶とか、忘れたい過去とか、そういうものを抱えているのに、自分だけが苦しい、辛いんだって錯覚してしまう。 忘れっぽい俺だって過去にそういうものが一つや二つあるものだ。 あるはずだ。…きっとあったと思う。 過去の出来事を断片的にしか覚えていないからハッキリとは言えないけど…。 それでもやっぱり、大きなものから小さなものまで辛いって感じるものはある訳で。 徐々にボーっとしていく頭の中でそんなことを考えていた。 「はぁ…っ……」 綺麗なオレンジに紫が侵食を始め、辺りが暗くなり出した頃、俺は走っていた。がむしゃらに。 足がもつれて、苦しげに顔を歪めて、息を切らし、それでもひたすらに走っていた。 あ…。これは夢だ。いつも見ていた夢。 見た瞬間夢だと分かる夢は多くはないけれど、この夢に至ってはもう何十回と見ていた。 毎度見る度胸が締め付けられるような苦しさを感じる夢。 ここ数年見てなかった気がするこの夢は妙に現実的で、登場人物は幼い頃の俺だ。 幼い俺がずっと走る。辛くて切なくて怖くて、嫌な汗を掻く。 「ーーちゃ……っ!」 ずっと走っているせいで声は誰かに届くほど出やしない。 それでも誰かの名前を呼びながら諦めず走る。走り続ける。 「ま……いて……で…! …め…さい…っ!!」 前方にうっすら見える影に何かを伝えようと泣きじゃくりながら叫んだ。 それでもその影に声は届かないだろう。 「ーーちゃん!!」 遠くから俺を呼ぶ声がする。応えなきゃ。そう思えど俺にはもう力はなかった。 長い時間走り続けるのはその幼い体では無謀だった。 それでもまだ何かを伝えようと俺は声も出やしないのに口を動かす。 ……俺の背後にはなにかが迫っていた。 それが嫌で嫌で、でもそんなのお構いなしにそれは俺に近づいてきて……
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