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「ええ! 溺れたりしてないよね?」
「してない、してない。東谷さんは、もうオッサンだから。分別もあるし自制も効く。半分眠りながらも意識は保ってた。そして、眠気覚ましに、顔にお湯を浴びせかけた。そこでようやく気づいたんだ。『このお湯の味、何かに似てる』って」
この味の記憶を頭の隅々から引っ張り出すべく、懸命に思い出そうとした。
過去の温泉の味とも違う。
こんな味の料理を食べたことがあっただろうか。
そして思い当たったのは、ついさっき味わったものだった。
「何だったの?」
「経口補水液」
ここに来るまでの車中でも口にしていた、経口補水液。
その味に似ていると感じたのだ。
「知ってた? 経口補水液って、飲む点滴とも言われてるんだぜ」
その組成は主に、水に食塩とブドウ糖を溶かしたもの。
これにより小腸から水分補給ができるため、下痢、嘔吐、発熱などの脱水症状の治療などに用いられる。
その他にも様々なものを添加して、電解質と糖質のバランスを考慮してあるのだ。
「で、経口補水液って、体液と似たような成分らしい」
東谷さんは、そのことをハタと思いついて、嫌な予感が頭をよぎったという。
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