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眼鏡少年は「おえぇ、気持ち悪い」とえずきながら目の前を横切る。
色白少年は、ちょっとだけ感謝の会釈をして、車両を降りて行った。
いやいや、感謝するのはこっちの方だ。今日も興味深い話を聞かせてもらった。
私は、二人分空いた目の前のシートに尻を預ける。
頭の中で、猿風呂の話をリピートして、感慨にふける。
横の席に、恰幅のいい中年女性が体をねじ込んできた。
壁と肉厚の腕に挟まれて、痛い。
これじゃあ、せっかくの余韻も台無しだ。
わずかに振り返り、窓外を歩く二人の少年を目で追う。
色白少年のポケットから、スマホストラップがはみ出している。
ドクロを模したそれは、ポケットに突っ込んだ金魚草の莢のように見えた。
金魚草、英語で、スナップドラゴン。
あの二人にコンビ名をつけるなら、それが適当なように思えた。
明日も、奇妙な話を聞かせてもらえるだろうか。
私はいつもの指定席で待っているよ。
越後線、越後曽根駅七時十一分発の電車。
二両目、一番前のドア。
進行方向の左側。
連結部分に一番近い吊革。
私だけの、特等席。
今夜のビアガーデンは、ちょっと控えめにしておかないと。
〈 了 〉
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