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 彼は瞳を閉じ、両手で俺の頬を包むと、柔らかな舌を唇の奥に押し込んでくるようにして唇を合わせた。ぬるりとした感触の舌が口の中を這い、小さな喘ぎを漏らしながらせわしなくいくつものらせんを描く。いつのまにかぴったりとくっついていた胸から、どくんどくんと心臓の鼓動が高鳴っているのが伝わってくる。 「だめ? 悪い子?」  舌を離して、唇だけはくっつけたまま、小さな声で彼が言う。その仕草や彼の言葉を、可愛いと思うと伝えたら、彼の機嫌を損ねてしまうだろうか。そんなことが気になるぐらい、すでに彼のことを気に入ってしまっている。けど……。  ねぇ、もっと俺を警戒しなくていいの?  俺も、彼に対して構えたりしないの? 「……本気にしてもいい?」  っ、まただ。  彼の舌と唇と、柔らかく熱い肌に触れた気持ちのよさに頭がぼーっとし始めているせいなのか、さっきのバレエのように思っていることをそのまま、考えもせずに口にしてしまった。けれども彼は、2人の間に流れる空気を変えることなく、 「ん?」  と小首を傾げた。近づきすぎるぐらいに近づきあっているその顔を、もう一度引き寄せて強く唇を合わせ、舌をねじ込んだ。背骨のあたりをまさぐる彼の指に、力がこもっていく。さっき、「待てないよ……」と言った、彼の甘えるような声が頭の中をゆっくりと行ったり来たりしている。 「悪いコだよ。けど、良いコより悪いコに惹かれるのは、俺だけじゃないんだろうね」     
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