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 想像した以上にきれいな背骨のラインに沿って舌を這わせると、柔らかい身体を撓ませて、とぎれとぎれの声が波のように寄せては返す。肩甲骨のくぼみ、脇腹、腰、その全部が、波がうねるように大きくしなる。このベッドがきしむ音を久しぶりに聞いた。  テレヴィジョンのトム・ヴァーレインの何が好きかと言ったら、あの悩ましい歌声だ。長身で細身なルックスももちろん好みだしギターの音も好いけれど、あの声以上の官能を覚える音にはまだ出会えていない。ヴァーレインはかつての恋人に「ミュージシャンの中でいちばん美しい首の持ち主」と言われていた。天は二物どころではなく、幾つものギフトを彼に与えたんだな。いったい何十人、何百人の人がその美しい首にくちづけ、舌を這わせ、歯で噛み、自分だけのものにしたいと願ったんだろう。  今、俺の目の前にある彼の首筋も、たぶんヴァーレインのそれと競えるぐらい充分に魅力的だ。肌の白さや肌理の細かさももちろん、さっき彼と長い長いキスを何度も交わした後で、気がついたんだ。無垢に見える彼の瞳の奥のほうに、蠱惑するような昏い光が一瞬差し込んだことに。彼の中の何がそうさせているのか、俺にはまだわからない。ただ、それと同じ匂いをこの肌にも感じる。吸い寄せられるままに唇をつけ、これは自分のものだという証のような痕を残してしまいたい。そんな衝動を掻き立てるだけの引力を彼の肌は持っている。
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