遅刻した

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「その声って……」  聞き覚えのある声だ、ゆっくりと視線を向ける。 「誰だ?」  一方のタカッシーは戸惑う素振り。ハッとして拳を止める。 「まったく、オモチャの金太マンじゃねーか。しかも金太マンイエロー。こっちは徹夜明けで眠いってのによ。……早く寝なきゃ死んでしまうってのに」  廊下をゆっくりと歩いて来るのはクラスメートのシュウだった。覚束ない足取り、気だるそうに頭を垂れている。彼はゲームが大好きだ。今は『タヌキ戦隊金太マン』にはまっていると言っていた。昨夜もそれに熱中して、寝ないで登校したんだろう。  その表情は遠くからは確認できない。油の浮いた髪の毛はボサボサだ。まどろむ脳みそ、おそらくはほとんど意識もないだろう。その姿からは疲労感と哀愁まで漂う。 「やべーな、俺のヒットポイントもゼロに近い。間違って毒の沼地に足を踏み入れたか……」  それでもその身から放つ覇気だけは健在。彼が歩く度にピンと張り積めた空気が辺りを支配する。その様は腹を空かせてジャングルを徘徊する百獣王 ライオン。 「……嘘だろ?」 「マジか……」  その身体とすれ違い、一年生達もようやく理解したようだ。この男こそが伝説のヤンキー、シュウだと。息をするのを忘れて呆然と立ち尽くしている。
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