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「悪くない……どころか、かなりいいと思いますよ。他のヤツらと比べて、連携が格段に上手いですね。たまに前のめりになりすぎな感じはありますけど、危なくなる前に奈々子ちゃんが止めてます」
「へぇ、成長が早いわねェ。人の顔色を見るのも得意なのかしら」
「頑張って仲良くなろうとしてくれてますよ。太陽のことも避けないで、積極的に話してますから」
「人の懐に飛び込めるタイプなのね。誰かさんにも見習ってほしいわァ」
「へいへい。で、支部長。さっきも言ったんですけど」
小さな棘が生えた一言に、竜胆が返したのは、
「早く本題に入ってくれません? こちとら昼飯が懸かってるんで」
日常会話の皮をかぶった、脅迫だった。
わざわざ自分を人目につかない場所に呼び出したのだから、ただの雑談のはずがない。にもかかわらず当たり障りのない話をするのは、支部長なりに気を遣ってくれているからだろう。彼のやり方は嫌いではないが、自分には不要だ。余命を宣告されても動じない程度の覚悟は、二度目の実戦の前に済ませてある。
鬼を威圧する時と変わらない眼差しに、しかし支部長は笑みを崩さなかった。値踏みするように竜胆を見つめた後、テーブルの上のファイルを開く。
「先月の初島の件、鬼の侵入ルートの目星がついたわ」
思っていた以上に大きな事案だった。思わず身を乗り出すと、書類の一枚目に書かれたタイトルが目に飛び込んでくる。
「……輸送量の記録ですか?」
「ウチと大湊を行き来する輸送船は、出発時と到着時に、積載量を計測するようにしてるの。出発前後で帳尻が合うかどうか、人の目以外でも確認するためにねェ」
「それは知ってますけど、何でそんなの引っ張り出してきたんスか?」
「ここを見てちょうだい」
そう言って支部長が指さしたのは、今から二ヶ月ほど前の記録だ。函館出港時の重量と、大湊到着時の重量が並んでいる。
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