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【12】 カーネルサンダース
「倫太っ!」
腹が減って力の抜けた足はすぐに追いつかれ、俺は男に腕を掴まれた。
「ったく…だから、どうして逃げる息子を追いかけるんだよ」
「ごめん…。でも、俺の聞き間違いじゃないなら、今……」
「知らねぇよそんなのっ! 離せって!」
「でも離したら逃げるだろう? 今日こそは、きちんと話したいんだ。倫太」
泣きたくなった。
胸が痛くて、苦しくて、切なかった。
さっさと泣いて全部流したいのに、涙は一滴も出てこなくて、そんなの初めてのことで、突然すごく心細くなった。
(ん? コレ、ホントに初めてだっけ? 前にどっかで……)
思い出せそうで思い出せず、一気に集中モードに入って記憶を探っていると、俺を呼ぶ声がそれを邪魔した。
「何だよっ! 今考え事してんだから…
…え?」
――――その瞬間、胸から鉛が落ちた。
「佐々から手を離せ! 警察を呼ぶぞ!」
状況を把握するより先に、大きな手で体を抱え込まれる。
その途端、光の速さで心細さが消える。
それはまるで、子供の時に見た「眠りの森の美女」の、呪いが解けた時のよう。全てが目覚め、茨がシャボンに変わり、暗黒の雲が消えて、祝いの花火が鳴り響き始める―――
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