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おそらく天然なのだろう薄茶色の髪は、今時の若者らしくぞんざいにスタイリングされている。
20歳の男にしては大きい瞳は、髪と同じ色をして光っていた。重ね着したTシャツに、迷彩柄の半端丈ズボン。ごつごつとしたデザインのスニーカーは、幼さ残る容姿とはミスマッチだが、意外と似合っている。
「……本当に20歳なのか?」
「開口一番目ソレっ!? 失礼なのはそっちじゃんか!」
「あ、ああ。すまない」
以前付き合っていた童顔の友人がこちらの予想以上にそれを気にしていたことを思い出し、慌てて謝る。
それからまた少年が真剣な顔になったので、何だかおかしくなった。
(俺が思い出すまで、辛抱して待っているつもりなのか)
近所の子供を見ているようで微笑ましく、少し苛立ちが消える。
「ねぇーまだ思い出さないのー?」
感心した途端、少年は痺れをきらしたように座席を掴んで揺らし始めた。
「…これでも飲んで待っててくれ」
甘いものが苦手ならよした方がいいが…と続けようとした俺の言葉を、少年の歓声が遮った。
「キャラメルマキアートじゃんっ! 俺コレ超好きーっ」
「それは良かった…」
(塾の生徒達が恋しい…)
集中した生徒達が創り出す静寂空間への逃避願望を抱いた俺は、ふと、記憶の鍵穴を見つけた。
「もしかして……以前の生徒…」
「もしかしてだとっ? ふざけんな! 名前までキチッと思い出せ!」
噛み付くように言い捨て、少年は再びキャラメルマキアートに戻った。
こめかみを押さえ、記憶の混沌を漂う。
(これだけ特徴のある容姿なら、何処かに記憶の断片があるはず…)
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