【14】 抱擁

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 あの後、佐々は泣き疲れてそのまま寝てしまった。今日はこれくらいにしておいた方がいいという鷹見君の助言もあり、父親とは公園で別れた。他に男手も無い為、仕方なく俺が佐々を抱えてタクシーに乗り込み、結局三人でこうして俺の家まで戻ってきたという次第である。 (だが、俺も佐々に言いたいことがあるわけだし、これはこれでよかった……のか?)  先程見つけた気がした本心も、佐々のハイテンションを前に、よく分からなくなる。 「では、これからも末永く倫太をよろしくお願いします、松倉先生。私はこの後人と会う約束があるので、ここで失礼させて頂きます」 「ん? 何で花梨『末永くヨロシク』してんの? 俺、義政に追い出されたばっかだって」 「そのことは後で先生から詳しく聞きなさい」 「ちょっ…鷹見君!」 「あ、そうそう。忘れるところでした。こちら、つまらないものですが、倫太のオマケと思って受け取ってください」  鷹見君は綿と竹で出来た手提げ鞄から小さな包みを取り出すと、机の上に置いた。 「鉄観音茶です」 「鉄観音……最高級中国茶と言われる、あの鉄観音茶か?」 「ええ。松倉先生、最近お茶に興味がおありのようでしたので。  『気になるけれど少し高価で、自分で買うにはなかなかふんぎりがつかない』という、貰って嬉しいプレゼントの基本を押さえてみました」 「…君は本当に優秀な人間だな」  密かに嬉しくなり、礼を言って受け取ろうとした時、ふと我に返った。 「い、いやっ。これは受け取れない」     
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