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【16】 雨の匂い
後に残されたのは、齢34にして人生最大の珍事に直面した男と、そんな男をじっと見つめている少年。
「えー……佐々」
とりあえず何か言わねばと思い、口を開くと、佐々は突然怪訝な顔をして唸り始めた。
「やぁっぱ呑み込めねぇんだけど。
俺、追い出されたばっかなのに、どーして花梨はまた『末永くヨロシク』したワケ?
ってか、何で義政は公園まで俺を追っかけてきたんだ?」
「それは…」
その時、長年磨き上げてきた社会常識と鉄の理性が、ストップをかけた。
佐々から顔を背け、理性を総動員して思考を巡らせる。
(俺も今年で35歳…あと数年もすれば人生の折り返し地点だというのに、ここで簡単に決断を出していいのか?
いや、冷静になってよく考えろ! 鷹見君に洗脳されただけだということも大いにありうる!)
「義政?」
呼ばれてつい振り向くと、そこには、1ヶ月前再会した時以来、久しぶりにじっくりと見る透明な亜麻色の瞳があった。
真っ直ぐ俺を見つめるその瞳に吸い込まれるような心地を覚え、見えない力に引かれるように、佐々の頬に触れた。佐々はそれに別段驚く様子もなく、そっと自分の手を重ねると、目を閉じて唇を寄せた。
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