第3章 上司はとりあえずうざい

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「向田、お前は営業何年もやってるんだから、正攻法以外のことも考えられんのか?例えば客先ごとに、まとめ買いしてくれたら数%割引するって案内を作るとか」 「…割引、ですか」 おれはあきれた表情になりそうなところを、何とか取り繕った。 この業界、まとめ買いを促すことほど無意味なことはない。 どの会社も景気は良くないのだから、必要最低限の商品しか抱え込もうとしていないのは、足を使って客先を回ればおのずと分かるはずだ。 伊澤支店長が外出せず、毎日この部屋でふんぞり返っている様子が目に浮かぶ。 「…それは考えつきませんでした」 「ったく、何のために係長なんて椅子に座っているんだよ。売り上げを出すために考えろ、動け!」 「はい」 「すぐに企画書を作って客先に提案するんだぞ。今日中だ。分かったな?」 おれは一礼して支店長室から出た。 ドアを閉めたことを確認してから、何かに当たり散らしたい衝動にかられたが、側には何もなかった。 仕方なく自販機でコーヒーを買って一気飲みし、ゴミ箱に投げ捨てた。
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