第2章 部下は会社を辞めたがる

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話は昨日の朝に遡る。 いつものように出勤し、鞄を席に置くとすぐに台所でこだわりのコーヒーを淹れていた。 うまいコーヒーを淹れるのは、大して楽しみのない仕事中の唯一の娯楽だ。 「係長、あの…」 そんなときに、安藤の声が背後から聞こえた。 「おー、すぐそっち行くわ」 「すみません」 席に戻ると、すぐに安藤がおれの横に立った。 見ると、その表情がやけに沈んでいる。 安藤は元々童顔で、黙っていれば高校生のようにも見えてしまう。 女の子にモテそうなスッキリした顔立ちをしているが、今は幽霊のように、目を見開いているものの表情がない。 手には封筒を握っていた。長時間握っていたのか、手汗で湿っているように見える。 「会議室で話すか?」 尋常じゃない雰囲気を察し、おれは安藤と部屋を出た。 何となく、何を話すつもりかは察してしまったが、そうではないことを祈りつつ会議室のドアを開ける。 「あの…辞めさせて欲しいんです」 部屋に入ると、イスに座りもせずに、突然安藤は切り出した。 やっぱりか…彼は目を伏せたまま、自分の中の葛藤を抑えるかのように佇んでいる。 「まぁ、とりあえず座って話そうぜ」 下手をすれば、手に持っている退職願であろう封筒をおれに突きつけて、そのまま帰りそうな気配さえする。 少しでも落ち着かせるため、イスに座らせた。 おれの立場から言うと、彼には辞めて欲しくない。 というか、辞められると非常に困る。
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