第2章 部下は会社を辞めたがる

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安藤と初めて会ったのは、採用試験の場。 当時、上司である伊澤支店長とおれの二人で、彼と面接した。 今までは支店長が一人で担当していたのだが、もし彼が採用になったらおれが面倒を見るため、おれも同席することになったのだ。 「当社を志望した理由を聞かせてください」 伊澤支店長の質問に、彼は暗記した文言をようやく搾り出すかのように話していた。 若者らしいフレッシュさや、覇気が感じられない。 「こんなところで働くしかないのか…」という、彼の心の声が聞こえてくるような気がした。 こんなところとはなんだ。 小さいながらも売り上げ、地盤はしっかりしていて将来性もある。 支店長におれからも何か話すように振られると、安藤にそれを力説した。 すると少しは表情が変わり、不安が去ったような表情をした。 …おれの時代では考えられない反応。 面接を受ける側が面接する側を吟味している。 時代の流れとは、怖いもんだ…そんなことを考えながら面接を終えた。 おれから本社へ報告すると、面接結果をろくに聞かないうちから「問題なければ採用しろ」とのことだった。 うちの会社は、昨年も一昨年も新卒の獲得に失敗している。 応募がなかったのだ。 当然のことながら新卒の多くは、大企業や安定した企業の入社試験を受ける。 うちのような小さな営業所に新卒が応募してくること自体稀だ。 今年応募してきたのも安藤ただ一人。 本社としては、東京で得られる新卒の新人は、喉から手が出る程欲しかったのだろう。 翌日、「ほんとに選考したんかい?」と突っ込みが入るほど早く、採用の連絡を彼に入れた。
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