第2章 部下は会社を辞めたがる

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そんな安藤が入社して約一年。 おれは彼の教育係として、営業のノウハウを教えた。 名刺の渡し方、顧客との付き合い方、新規得意先開拓、トラブルの解決法など、一通り伝え、そろそろ独り立ちできる頃かな…と思っていた矢先だ。 現状、顧客の数に対して、それを担当する営業の人数はギリギリだ。 一人抜けるととたんに、他の社員の負担が増える。 今彼に辞められたら他の社員の不満が爆発して仕事が雑になり、顧客離れにもつながりかねない。 さらに本社も、新卒が入って喜んでいたところだったため「お前の教育が悪い!」と、怒りの矛先がおれに向くだろう。今から新人を雇うにしても多額の費用も時間もかかる。 おれだけの都合で考えれば、安藤を辞めさせるわけにはいかない。 「いつから辞めたいと思ってた?」 「…結構前です」 外堀から埋めるように、少しずつ話を進める。突然「辞めるな」などと言えば、逆効果だ。 「仕事、楽しくなかったか?結構成績上げてきてたよな」 「…はい」 「最近の調子はどうだったんだ?」 「まぁ、普通です」 彼は普段から饒舌ではないが、今日はことさら口が重い。 しかし、さっきよりは落ち着いてきたようだ。 そろそろ核心に切り込んでみよう。 「なんでまた、辞めたいって?」 「…会社が辛いんです」 「会社?仕事じゃなく、会社が辛いってこと?」 「…はい」 「会社かぁ…おれはてっきり仕事が嫌なのかと思ったけど。会社のどんなところが辛い?」 「…自由がないところ、です」 「自由?」
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