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第4章 彼女だけの前だけが落ち着く
「これが社畜ってもんだぜ。ったく、何が楽しいんだか」
おれは一気にビールを飲み干す。
「今日は大変だったね。お疲れ様」
隣の由美が、すかさず瓶ビールをついでくれた。
今日のたまった鬱憤は、由美の笑顔を拝することで、何とか割り切れるようになってきている。
由美は、中学の同級生だ。
2年のときに一度隣の席になったことはあったがそれほど仲良くはなかった。
SNSを通じて再会したのは半年ほど前。
勤めている会社が近かったことから仕事の後の飲み友達になり、仕事の愚痴や趣味の話など、何でも語り合った。
お互いの存在が恋愛対象に変わるのに、そう時間はかからなかった。
由美は、中学時代はおとなしく、クラスでも目立たない女友達とよくつるんでいた。
しかし大人になってから再会した彼女は驚くほどきれいになり、控えめな声で屈託ない笑い方が印象に残った。
人の気持ちを察することがうまく、よくおれの考えていることを正確に当てた。
それが、おれの心の中にスッとさりげなく入ってきてくれるようで心地よく、嬉しくもあり、再会して1週間も経たないうちに、おれはもう惚れていた。
「それで月曜から呼び出して、私相手に飲んだくれてるわけだ」
「まったく、美人の顔でも拝ませてもらわなきゃやってらんねって」
「うまいね~」
「美人って由美のことじゃないけどな。そこの若い店員さんの…ぐえっ」
由美はおれの足を、ハイヒールのかかとでガッとつつく。しかしいたずらっぽく笑うその笑顔がかわいい。
会社の近くにある、狭くて安い居酒屋でも、由美がいてくれたら癒しの空間に早変わりするものだ。
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