第5章 そして事件は起こった

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第5章 そして事件は起こった

そして翌日、出勤した直後に勃発したのは、冒頭の「新規得意先・500万の注文ドタキャン事件」という訳だ。 おれは淹れたてのコーヒーを置き、放心状態の安藤に近づいた。 「安藤、テンション下げるのは後だ。まずは状況確認しろ」 安藤は力なくうなずくと、携帯を取り出してコールした。 「お世話になっております、北大阪パイプの安藤と申しますが…」 俺は安藤の隣に座って、彼が電話する様子を見つめる。 隣にいたところで何をできる訳でもないが、安藤の様子でどんな話をしているかを察することはできる。 担当者と話し始めた安藤は、突然狼狽し始めた。 かすかに受話器から怒鳴り声が漏れてくるのが聞こえる。 内容までは分からなかったが、確かに事務の女の子が言う通り、激しい剣幕のようだ。 「はい、確かに仰ることは分かるのですが、こちらでも確認をさせて頂いておりますので…、あ、いえ、御社だけが悪いのではないのですが…」 どうやら相手は相当感情的になっている。 このまま電話で話しても埒が明かないと判断し、おれはメモで「今日訪問しろ」と指示を出した。 安藤がその旨を相手に伝えると、何とか通話を終えることができたようだ。 深いため息とともに携帯を机に置いた。 「えらい剣幕みたいだな」 「こんなこと始めてです…」 安藤はガクッとうつむく。 おれも客先から怒鳴られたことは何度かあるが、500万を間に挟んでの攻防は経験がない。
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