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 彼に声をかけるものはいない。美月を気にするものがいないではないが、いま彼の傍に行くのは自分たちの不利益になると彼等は知っている。 (そんなに、媚びたいのか)  あきれた美月の唇から、また吐息がこぼれた。  いまはアルファと呼ばれる特権階級――階級だけでなく、能力的にも優れている者たちが『天使の館』に訪れる時間。  オメガは優秀なアルファに見初められ、身請けをされて子どもを産むのが幸福だと教育されている。いかに優秀なアルファに目を止めてもらえるかが、この館に連れてこられたオメガたちの今後の人生を左右すると言ってもいい。  アルファの遺伝子は強く、劣等種とされているオメガよりもアルファの特徴を受け継ぐ子どもが生まれる可能性はきわめて高い。能力の遺伝を望むアルファは、より優秀で、うつくしい後継者を手に入れるため、自分の望む容姿を有した――あるいは、自分の欲求を満たせるオメガを見つけるために、この『天使の館』を訪れる。 (天使の館……か)  なかには、打算などなにも気にせず自由に過ごしているオメガもいる。そういうオメガたちでさえ美月に近寄らないのは、なんとなくそういう雰囲気が出来上がっているからだ。  アルファが館にいる間は、最上の天使である美月には近づかない。     
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