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 そう答えれば、相手は充足を満面に広げる。しょせんはオメガと見下しているのがありありとわかる相手には、媚びすぎない程度の愛想が一番いい。自尊心を傷つけずに、こちらの優位性も示す。それが“優秀な後継者を産む。あるいは欲求を満たす”だけの存在として扱われないコツだと、この館で過ごす間に学習した。  オメガの妊娠は、オメガが望まなければ成立しない。だからアルファは目当てのオメガを大切にする必要がある。そこを理解していないオメガは、アルファに振り回されて、そういうものだと思いこみ、交合するだけで子どもを宿す。  ここに入れられるまで、そのような知識を美月は持っていなかった。ここで学習できたことは、ありがたい。金と引き換えに両親から無理やり引きはがされたけれど。 「どうかな」  言葉すくなに誘われて、美月はうなずく。ここで拒否をするのは得策でない。たとえそれを望んでいなかったとしても。 (この館は、アルファたちの寄付金で運営されているのだから)  逆らってもいい範囲と、逆らってはならない範囲との見極めは難しい。それを見誤ると理不尽な扱いが待っている。  優雅で恵まれた生活に、自由はない。  美月は背を向けた財前のうしろをついていく。  中庭を取り囲むドアはすべて客間で、財前はそのうちのひとつを私物化していた。それだけ多額の寄付をしているのだと、オメガたちだけでなく、ほかのアルファたちにも示している。その心根が、美月に嫌悪を抱かせていた。     
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