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ようやく帰宅をした僕は自室のドアの前に立っていた。物音を立てずに、少し開いているドアの隙間からそっと中を覗き見る。
予想はしていたが、起きている砂生の姿があった。砂生は無我夢中で描画に没頭している。砂生の周囲には描いた紙が散乱していた。
その紙の一枚一枚に僕の姿が描かれている。その人物画が僕であると、僕がはっきりとわかるくらいに砂生はうまく僕の絵を描く。よく飽きもしない。感心するほど集中してその手は動く。
もう慣れた光景だが、同じ素材を執拗に何枚も、のめり込むように描く姿に当初は戸惑うこともあった。
砂生は好きで描いているという。絵を描くのは生活の一部で、それに没頭していると落ち着くようだ。
僕は砂生が描いている姿を見るのが好きだから、邪魔はしない。
―さて、どうしようか。
今ドアを開けて入っていくと、その手を止めてしまうんじゃないか?
そう考えていたとき、ふと砂生の手が動きを止めた。
「小守くん?」
砂生がこちらに気づき、視線を向ける。
盗み見ていた僕はバツが悪くて少しためらったが、すぐに表情を押し隠してドアを開けた。部屋の中に足を踏み入れる。
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