1人が本棚に入れています
本棚に追加
知り合いのいない同窓会ほどつまらないものはない。
修二は周りを見渡して、そのことをあらためて確信した。
髪はすっかり白くなり、それでいて皮膚には年甲斐もない純粋さが張り付いている。
わざわざ五十をすぎてこんなところに出てくるくらいだから自然中心的人物が集まっているのだろう。
がなり声にかしましい笑い声。
下品な咀嚼音と足音が響く。
父も本来はここに来る予定だった。
久しぶりの同級生との再開に心を弾ませていたためか、しかし父は業務中誤って腰をうち、今はベットの上だ。
修二には参加資格などないはずだった。
しかし雰囲気だけでも知りたいのだという。
おかげで自分より二まわりも上の人間に囲まれて広いホールにただ突っ立っている。
父の親友だという男は修二と二言三言交わしたあと早々に会場を後にした。
帰りたいというのが率直な感想だった。
きらびやかな照明も、居並ぶ高級料理の数々も、今の修二には目障りでしかない。
見知らぬ人間を前にしたストレスで倒れそうになり、慌ててテーブルをつかむ。
そのままオレンジジュースをぐいとひといき。
「…はぁ」
これからどうしたものかと思案していると、後方から暗い声が聞こえた。
「ちょっと」
ここに知り合いはいない。
だから修二に向けられたものであるはずがなかった。
しかしその声は修二の耳を確実に捉えるとその陰湿な調子で言う。
「ちょっと、いいですか?」
修二は我慢できずふりかえる。
相貌の暗い、影のような男がそこに立っていた。
目は一心にこちらを見つめている。
「なんでしょう?」
「お話があるんです」
そして出口に向かって手招きをする。
それに応じる義理などない。
だがここに居座る理由もなかった。
「一緒に来ていただけますか?」
「……えぇ。いいですよ」
灰色の夢で一杯だった部屋を後に、修二は彼につづいた。
最初のコメントを投稿しよう!