つながらない男

4

「どういう意味だ？」
「そのままの意味です」
男はその表情を変えることなく言う。
「一人の男なんです」
「は？」
両手を壁に向かっていっぱいに広げて言う。
「このツイッターアカウント全て、一人の男が運営しているんですよ」
「…は？」
意味が分からない。
いや、ゆっくり考えれば言葉の意味くらいとれる。
だが、この暑さのせいだろうか、そんなことを一人でする意味が分からなかった。
ざっと見ただけで分かる、数百にものぼるアカウント。
これを一人で？
「なぜそんなことを」
修二のもっもとな問いに男は不真面目に言う。
「孤独だからです」
修二は男を睨んだ。
彼は修二のその視線を楽しそうに受け止めると、身ぶりで部屋の中央のソファーを進める。
「どうぞ」
にこやかな笑い。
「お話ししましょう」

※※※※※※※※※※※※※

見知らぬ人間に囲まれた同窓会ほどつまらないものはない。
だが、見知らぬ男を前に見知らぬ部屋で会話をすることも楽しいわけではない。
頭ではそう分かっているのに、不思議なことに修二はその場を離れる気がしなかった。
目の前の男にはそれを許さない引力があった。
「さて」
男は修二の前で手足を組むと言う。
「どこからお話ししましょうか？」
「その男のことを」
修二はいぜんモニターに表示されたままのアカウント群を指差して言う。
「あれは何だ？」
「よろしい」
男はこくんと頷いた。
「木城という男の名を聞いたことは？」
「ない」
修二は首をふって答える。
「あんたの名前か？」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
男はくくくと笑って続ける。
「あなたはどうみても同級生ではない。では私はどう見えますか？あなたのお父さんもしくは叔父さんと同級生に見えますか？」
修二はそのすらっとした体躯を観察した。
のりのききすぎたスーツ。
ややひきつった頬。
気味の悪い笑い。
修二は首をふった。
「いいや」
「私が今から話すのはあなたのお父さんもしくは叔父さんの」
「父だ。病気でこれない父の代わりに、俺が出席した」
「なるほどなるほど」
男は眉を少し動かして言う。
「なら、あなたのお父さんの同級生の一人の男です。私は今からその男について話します。」
男はそういって人差し指を口にあてがって続ける。
「それは私かもしれない。私じゃないかもしれない。