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これまで、これから
久しぶりに訪れた妻の実家でお茶を頂いていると、お義母さんが一冊のアルバムを押し入れから出してくれた。
削れた角や褪せた背表紙に時の流れを感じられる、どこにでも売っているような大判の写真アルバム。
それは、僕と妻が運命の出会いを果たす以前の記録。
ごゆっくり、とでも言うように席を外してくれた義母に頭を下げ、重いアルバムの表紙を開く。
丁寧に保管された写真は、いずれにも一人の少女が映っていた。
年の頃は写真によって様々だが、間違いなく、少女には私の妻となった女性の面影が残っている。
「久しぶりに見ると、なんか恥ずかしいなあ」
妻の言葉に苦笑を返して、記録を眺める。
若い頃の彼女は、今ほどの成熟した美しさは無いものの、活発で元気の良い女の子であった事が伺える。
時折、妻は写真を指差して思い出を語ってくれた。
とても楽しそうだが、その思い出に僕はいない。それが、どこか寂しい。
そんな僕の寂寥を見抜いた……という訳でもないだろうが、妻は少しばかり唐突に言った。
「ねえ、帰りに新しいアルバム買おうよ。私たちの写真も、こうやって残せるように」
妻も僕も、写真はあまり撮らない。精々が携帯電話のカメラで簡単に撮影するくらいだ。
だが、こうしてアルバムを見ていると、もう少ししっかりと、目に見える形で残しておきたいという思いも浮かんでくる。
そうしよう、と了承した僕に、妻も満足気に頷く。
「大きいアルバム買わないとね。私と、あなたと……この子。三人分なんだから」
穏やかに、愛おしげに言いながら、すっかり大きくなったお腹を撫でる。
そんな妻の目は、既に、これから先に作られるたくさんの思い出を見ているようだった。
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