0人が本棚に入れています
本棚に追加
たとえばそれがぼくらだということだ
気持ちのいい風の吹く星の下。
ふたりはベランダでよく晴れた夜空を眺めていた。
一緒に住み始めて半年になる。
だいぶお互い違和感なく暮らせるようになってきたから、おそらくやっと、恋、なんて甘いエリアを脱したのかもしれない。
「キミ、はい」
サカツキがユウナギに向かって何かを投げる。
「おおっと」
かろうじてキャッチして確かめると、よく冷えた缶ビール。
「珍しいですね、サカツキさん缶ビールなんて」
「このシチュエーションで日本酒はいささかムードにかけますから」
ふたりは手すりに並んでもたれながらプルタブを開ける。
「うまい」
「ええ、たまにビールもいいですね」
昼の火照りを忘れるくらいに幾分涼しくなりかけた風が、頬を撫で髪を揺らす。
しばらく黙ってそんな心地よさを五感で楽しんだ。
ふと、サカツキが何かを思い出したように笑う。
それは甘酸っぱいような笑顔で。
「なんなんです、サカツキさん。何思い出したの?」
「いえね、昔のこと」
「思い出し笑いなんて、サカツキさんHですね」
「思い浮かんでそれが笑えたら、笑うしかないでしょう」
「そりゃそうだ。で、何思い出したの?」
「キミをはじめてみたときのこと」
最初のコメントを投稿しよう!