あの空の色

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 数曲連続で歌った後、恵里香はソファへ座り、クリームソーダに乗っているバニラアイスを口に運んだ。 「そうだな。半年しかない。受験までは半年もない」  俺がノートから顔を上げずに言うと恵里香は「そういう事言うー?」と不満気な声を出した。 「言うよ。恵里香は小児科医になりたいんだろ?」 「はい」 「俺は外科医。どれだけ難しいかなんて分かってるだろ」  俺の両親はサラリーマンだ。  父親は大手企業に務めてはいるが、医者ではない。  だから、自らの力だけで勝ち取らなければならない。 「わかってます」 「俺と同じ大学行くんだろ?」 「うん」 「なら間近で頑張りすぎて心臓に負担かけるのも良くない」 「でも、最近調子いいんだよ。歌っても息切れしないしさ!」  俺は深く息を吐いた。 「ストレス発散には付き合うけど、ホドホドにな」 「はぁい」  1時間で部屋を出て、恵里香の自宅まで送り届けると、俺も自宅へ向けて歩き出した。  9月の空が藍色と朱色に染まる。  この空が、遠くない未来見れなくなるなど、この時の俺は知る由もなかった。
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