1 盗賊と少女

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1 盗賊と少女

 ロストが旅に必要な道具や食糧を買いに、カルウェンという街に降り立った時から、運命はその糸を織り始めていた。  緑と水の豊かな国(ライクローズ)に差し掛かる手前の、死と砂漠の国(ジェレイド)にあるこの街は、大きいとも、小さいとも言えないような、微妙な大きさの街であった。汽車が、黒煙をぼうぼうとせきたてるかのように蒸している。もうじき、ライクローズ国の首都にあたる《セレード》への出発を合図しているのだ。 (どうしてこう、厄介事ってのは急ぎの時にやってくるんかね)  ロストは群衆が見守る中、見るからに貴族のような、清潔な恰好をした少女の前に立って、呆然とその風景を眺めていた。少女は怯え、ロストの影に隠れるようにしてうずくまっている。 「おい、兄ちゃんよ。アンタ、この女の何だい? オレたちは、そこの姉ちゃんに用があるのよ。そこを退いてくれないか?」  優にロストの二倍はあるのではなかろうかと言うほど恵まれた体格の、大柄な男は、手入れの行き届いていない無造作な髭を撫でながら、見下ろすように言った。 「さぁね、俺も何がなんだか。買い物の帰りにこの女の子がぶつかってきたと思えば、アンタらゴロツキに絡まれた、ただの通行人ってところか」  ロストは少しも萎縮する様子を見せず、飄々と語った。その語り口は、羽のように軽く、妙な堂々しさを感じるほどだ。そんな目の前の青年の奇妙さに眉をひそめながらも、軽快に大男は返す。 「そいつは悪いことをした。ただの通行人とあっちゃ、大変な迷惑をかけちまったな。だから、早くその女を渡してくれねぇか?」 「それとこれとは話が違うってとこだな」  なんだと? と、大男が身体を前に乗り出すと、ロストは鼻で笑いながら、うずくまる少女を見下ろした。 「あんたらがどんな理由でこの女の子を追っているかなんて、微塵も興味がないが、あんたの持っているそれには興味があるぜ」  ロストがそう言って指を指したのは、大男が腰にぶら下げている、宝飾を施した刀《マルベクス》。世界六大宝剣の一つに数えられているほどの、名刀だ。 「あんたのようなゴロツキがどうしてそんなものを持っているかは知らないが、俺はそいつで一つ、確認したいことがあってな」  大男の額に、血管がギリギリと浮かぶのが分かった。
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