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大男は何かを発するよりも早く、その刀を鞘から引き抜くと、ロスト目掛けて一直線に切り込んできた。気合いの込められた叫びと共に振り下ろされたその刀は、見事に空を切って、地面に反射した。
「マルベクスは本来、魔刀だ。あんたのような脳筋じゃあ、宝の持ち腐れだな。ダノ砂漠に眠る《死の王》が守ってきたとされ、今はジェレイド最大のお尋ね者、ガルマドの手にあると聞いていたが……」
「ごちゃごちゃと、うるさいんじゃ!」
ひらりと避けたロストに、追撃の手が迫る。しかし、その一振りも、空振りに終わった。大男は、この飄々とした青年が、只者ではないことに気がついていた。
勿論、誰が見ても、隙のない大男の剣閃をくぐり抜けるこの青年が只者ではないことくらいひと目で分かるが、もっと違う何かを。心の臓の底が冷えるような何かを、感じていたのだった。
「お前、何者だ。只者じゃねぇようだが」
大男は冷静さを取り戻したのか、怒りに任せて剣を振るうような真似はやめて、間合いを取ることに全神経を注いだ。
「さっき言ったろ、ただの通行人さ。ただ、強いて言うなら……」
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