1 盗賊と少女

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 瞬間、ロストの左手が閃光に包まれた。ビリビリと周囲に衝撃が走る。これは比喩などではなく、実際に、電流として、この砂漠の大地を閃光が伝っていたのだ。  そこで、大男と共にいた、やせ細ったゴロツキの下っ端が、唇を震わせた。 「ガテイさん! 俺、こいつ知ってますよ!」  ガテイ、と呼ばれた大男はロストから目を離せなかったが、痩せた仲間の声を近くに聞いていた。緊張して渇いた喉から、搾り取るように叫ぶ。 「闇を駆け、魂を貪り喰らう──、最凶にして最悪の大怪盗《魂を屠る者》ですよ!」  ふっと、周囲で様子を見ていた野次馬たちが、ざわつき始めた。その会話たちは、雑音となってこの広場を飛び交っている。そして、視線を合わせたら、目が潰されるのではないかと言うほどに怯えるそのゴロツキの横で、もう一人のガテイの仲間が大声を上げた。 「ガテイさん、駄目です! こいつが……本当に《魂を屠る者》なら……!」  仲間の声を聞いて、何かを悟ったのか、ガテイはその身を引いて、刀を鞘に収めた。ガテイの目は、真っ直ぐにロストの瞳へと向けられていたが、戦いの経験を多く積む手練れとして察したのだ。“もう一度近づけば殺される”と。  ガテイは小さく合図をすると、二人の下っ端と共に街の奥へと消えていった。──既に、セレード行きの汽車は、汽笛を上げて荒野を駆けてしまっていた。
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